仕様基準のススメ

省エネ基準適合義務対応にお悩みの工務店様へ

2025年4月より、省エネ基準への適合が義務化されました。
原則的に、4月以降に着工する全ての建築物は、国が定めた省エネ基準に適合することが義務付けられました。これまで義務対象外だった一戸建て住宅も例外ではありません。

このページでは、主に新築木造一戸建て住宅について、適合義務制度の概要、適合の確認のしかた、お勧めの対応方法について解説いたします。
義務化以降、下記のようなお悩みを抱えている工務店様は、ぜひご覧ください。

  • どう対応したら良いのか分からない
  • 対応できているものの、適合義務基準レベルであまり手間をかけたくない
  • 義務化開始直後の混乱をできるだけ回避したい

※ご注意ください:
「省エネ基準適合義務化」と「4号特例縮小」は、建築確認の改正に同時期に行われたため一緒に扱われることが多いですが、元来は別の制度です。
このページでは、4号特例縮小(構造図書の提出義務化など)についての解説は行いません。

解説動画

2024年11月の『木と暮らしの博覧会』で開催したミニセミナーの動画です。

省エネ基準適合義務制度の概要

省エネ基準適合が義務となった現在、工務店様は住宅新築の際に下記の作業が必要となっています。

  1. 省エネ基準への適否の確認(外皮計算、一次エネルギー計算など)
  2. 適合判定審査書類の作成(断熱材や設備の仕様書作成、図面への書き込みなど)
  3. 省エネ適合判定の審査の申請・「適合判定通知書」の取得

建築確認には、省エネ基準に適合していることを示す「適合確認通知書」が原則として必要となります。この書類がないと建築確認が下りず、着工できません。

省エネ適合判定の審査・適合確認通知書の交付は、所管行政庁、または「登録省エネ判定機関」が行います。一般的には所管行政庁ではなく、省エネ判定機関を利用することが多くなるでしょう。
また、建築確認検査を行う「指定確認検査機関」と、「登録省エネ判定機関」の両方を兼ねる機関もあります。この場合、建築確認申請と省エネ適判審査申請を同一機関に同時に出すことが可能ですが、確認検査には慣れていても、省エネ適判は経験不足(またはその逆)という機関も当初は多いと予想されますので、しばらくはそれぞれ個別に申請した方がスムーズな場合もあるかもしれません。

省エネ基準への適合判定と、判定機関への申請は、予想外に手間のかかる作業です。更に、義務化開始直後の4月現在、審査機関もかなり混雑が見られ、建築確認の大幅な遅延、ひいては着工の遅れが発生しているようです。

ですが、省エネ基準適合の確認をある方法で行うと、適合確認作業自体が非常に素早く簡便になるだけでなく、適合判定申請も省略でき、大幅な省力化につながります。
その確認方法とは、「仕様基準」により省エネ適合することです。

省エネ基準適合の確認ルート

省エネ基準は、「断熱性能」と「一次エネルギー消費量」それぞれに基準があり、両方に適合しなければなりません。
適合の確認方法には、大まかに以下の2つのルートがあります。

  1. 性能基準(標準計算)ルート
  2. 仕様基準ルート

「省エネ計算」と言った場合、通常は1.の性能基準ルートを指します。それに対し、2.の仕様基準ルートは、手間のかかる省エネ計算をしなくても、基準への適合判定が可能な方法です。

各ルートの作業手順

それぞれの作業手順は以下の通りです。

「性能基準(標準計算)ルート」は手間のかかる作業です。ベテランの方が専用の計算ソフトを使用しても2~3時間はかかりますし、建物によっては1日以上要する場合もあります。
また、たとえ断熱仕様と設備仕様が全く同じでも、建物の形や間取り、建築場所などによって結果が変わるため、一棟一棟必ず計算が必要という点も手間のかかる要素です。

対する「仕様基準ルート」は、あらかじめ用意されているチェックシートを用いて、断熱仕様と設備仕様が一定の基準を満たしていれば適合となります。その確認に要する時間は30分程度です
建物の形や間取りは判定に影響しませんので、全く同じ仕様であれば判定結果も変わりません。

判定できる基準

性能基準(標準計算)は、基本的に全ての基準の判定ができます。
省エネ基準は、そのグレードによっていくつも定められています。「住宅性能表示」で言うところの等級、「HEAT20」のG1・G2・G3、ZEHやZEH+、GX指向型、東京ゼロエミなど、策定団体や行政などによって様々な基準があります。
それらの基準は、断熱性能(外皮性能)と一次エネルギー消費量が数値で決められており、性能基準(標準計算)の結果を見て適否を確認します(数値以外に別の要件がある基準もありますが、省エネ計算部分は同一です)。

以下の表は、主な基準の適合数値です。地域区分を切り替えて確認できます。

主な基準 太陽光を除いた
削減率[%]
太陽光を含めた
削減率[%]
(売電分含む)
外皮平均熱還流率
UA値
太陽光
{{ key }} {{ item[0] }} 以上 {{ item[1] }} 以上 {{ item[2].toFixed(2) }} 以下 {{ item[3] > 0 ? '必須' : '―' }} {{ item[4] }}

一方、仕様基準では、判定できる基準が以下の2つに限られます。

  1. 省エネ仕様基準(断熱等級4・一次エネ等級4相当:2025年4月の義務化基準)
  2. 誘導仕様基準(断熱等級5・一次エネ等級6相当:2030年4月に義務化予定)

2.誘導仕様基準は、いわゆる「ZEH水準」のことです。2030年4月には、適合義務の基準がZEH水準に引き上げられる予定です。

各ルートのメリット・デメリット

性能基準と仕様基準それぞれのメリット・デメリットを整理すると、以下のようになります。

  • 性能基準(標準計算)ルート
    • メリット
      • 適合義務の基準だけでなく、より高い水準の省エネ計算ができる
      • 仕様の限定がない(基準に適合する計算結果さえ出せるなら、どんな仕様でも採用できる)
    • デメリット
      • 計算作業に非常に手間がかかる
      • 計算がすべて完了するまで、適合判定ができない
      • 同じ仕様でも建物によって計算結果が変わるため、一棟一棟計算が必要
  • 仕様基準ルート
    • メリット
      • 省エネ計算不要、チェックシートで素早く確認できる
      • 同じ仕様であれば、建物が違っても適合となる
    • デメリット
      • 2025年4月の義務化基準と「ZEH水準」の適合判定しかできない
      • 仕様がかなり限定される(特に設備仕様)

メリットとデメリットがそれぞれ逆にあることが分かります。

ただ、省エネ基準適合義務化のみに対処するなら、「仕様基準」による対応をお勧めいたします。

  • 短時間で簡単に適合チェックができる
  • 同じ仕様であれば、物件が違っても問題ない
  • 「省エネ適判」審査が不要

下図の通り、主に時間・手間の面で「仕様基準」が圧倒的に有利です。

仕様基準はコストアップ?

手間・時間の面では「仕様基準」が有利ではありますが、きちんと計算をしない分、かなり余裕のある仕様(オーバースペック)で、建築コストがかかってしまうのでは?
「仕様基準」について、このように考える方が多くいらっしゃるようです。

性能基準(省エネ計算)で判定することで「経済設計」した方が良い、という意見もよく聞こえてきます。
ですが、「仕様基準」は本当にコストアップになるのでしょうか?
さらに言えば、性能基準による「経済設計」にかかってしまう手間・時間は、はたしてコストダウンに見合うのでしょうか?

そこで、「仕様基準」に適合する仕様が、「性能基準(標準計算)」でどのような計算結果になるか独自に検証してみたところ、それほど極端なオーバースペックではないことが分かりました。

→「仕様基準」適合仕様の、標準計算による計算結果資料(ZEH水準)

また、上記資料をご覧いただくと、省エネ計算は同じ仕様でも建物によって結果が大きくばらつくことが分かります。
特に計算結果が悪くなりやすい住宅(例えば窓面積が大きい建物)の場合は、仕様基準で適合していても、性能基準(標準計算)で適合できない例もありました。建物によっては、性能基準の方がコストアップになってしまう場合もあるのです。

また、性能基準(標準計算)では、省エネ計算を外注に出した場合の一般的な相場は約5万円~10万円です。更に、省エネ適判の審査料は、審査機関によりますが、約4万円前後となっています。
「仕様基準」であれば、これらのコストは発生しません。これらにかかるコスト以上の「経済設計」が難しい場合は、「仕様基準」も積極的に採用する価値があると言えるでしょう。

仕様基準に適合する代表的な仕様例

最後に、代表的な仕様基準適合の仕様例を掲載いたしますので、参考にしてください。
なお、仕様基準では以下の点にご注意ください。

  • 「省エネ適合基準」と「誘導基準(ZEH水準)」の判定のみ可能です。ZEH水準を超える基準の適合判定はできません。
  • 計算結果の数値(外皮平均熱貫流率UA値、BEI、エネルギー削減率)は出せません。
  • 誘導仕様基準で「ZEH水準」は判定できますが、削減率が出せないため、「ZEH」であることを判定できません。
  • 採用できる設備仕様が限られます。例えば、床暖房や壁付け第一種換気はNGです。熱交換型換気扇にも注意が必要です。
    他にも様々な制限がありますので、詳しくは「仕様基準ガイドブック」でご確認ください。
省エネ仕様基準 5~7地域 軸組工法 グラスウール仕様
外皮仕様
断熱部位 工法 断熱材 熱伝導率(1) 厚さ[mm](2) 熱抵抗(2)/(1) 仕様基準 適否
天井 桁間充填 旭ファイバーグラス_アクリアマット14K 0.038 155 4.1 4以上 適合
外壁 柱間充填 旭ファイバーグラス_アクリアマット10K 0.043 100 2.3 2.2以上 適合
外気に接する床 床梁間充填 旭ファイバーグラス_アクリアUボードNTα20K 0.035 120 3.4 3.3以上 適合
大引間充填 旭ファイバーグラス_アクリアUボードピンレス20K 0.036 90 2.5 2.2以上 適合
玄関基礎壁-外気側 立上り内側 カネカ_カネライトフォームスーパーE-Ⅲ 0.028 50 1.8 1.7以上 適合
UB基礎壁-外気側 立上り内側 カネカ_カネライトフォームスーパーE-Ⅲ 0.028 50 1.8 1.7以上 適合
玄関基礎壁-床下側 立上り内側 カネカ_カネライトフォームスーパーE-Ⅲ 0.028 20 0.7 0.5以上 適合
UB基礎壁-床下側 立上り内側 カネカ_カネライトフォームスーパーE-Ⅲ 0.028 20 0.7 0.5以上 適合
製品名 熱貫流率 仕様基準 適否
玄関ドア YKKap_ヴェナートD30 D4仕様 2.9 4.7以下 適合
製品名 建具仕様 ガラス仕様 熱貫流率
日射熱取得率
仕様基準 適否
YKKap_フレミングJ 金属 複層・Low-E
7㎜未満 取得型
4.1 4.7以下 適合
0.51 0.59以下
設備仕様
製品名 仕様 仕様基準 適否
冷暖房設備 冷暖房機器なし 適合
換気設備 換気扇 パナソニック_FY-08PDA9D 換気方式 壁付け第2種または3種 壁付け第一種不可 かつ熱交換不可 適合
給湯設備 給湯器 パナソニック_HE-WU46KQS 熱源種類 エコキュート エコジョーズ・エコキュート・エコフィールのいずれか 適合
年間給湯保温効率 3.0
照明設備 照明器具 非居室 照明器具の種類 全てLED 白熱灯不可(LEDか蛍光灯のみ・居室は問わず) 適合
誘導仕様基準(ZEH水準) 4~7地域 軸組工法 グラスウール仕様
外皮仕様
断熱部位 工法 断熱材 熱伝導率(1) 厚さ[mm](2) 熱抵抗(2)/(1) 誘導仕様基準 適否
天井 桁間充填 旭ファイバーグラス_アクリアR45 0.038 170 4.5 4.4以上 適合
外壁 柱間充填 旭ファイバーグラス_アクリアネクスト14K 0.038 105 2.8 2.7以上 適合
外気に接する床 床梁間充填 旭ファイバーグラス_アクリアUボードNTα20K 0.035 120 3.4 3.4以上 適合
大引間充填 旭ファイバーグラス_アクリアUボードピンレス20K 0.036 90 2.5 2.2以上 適合
玄関基礎壁-外気側 立上り内側 カネカ_カネライトフォームスーパーE-Ⅲ 0.028 50 1.8 1.7以上 適合
UB基礎壁-外気側 立上り内側 カネカ_カネライトフォームスーパーE-Ⅲ 0.028 50 1.8 1.7以上 適合
玄関基礎壁-床下側 立上り内側 カネカ_カネライトフォームスーパーE-Ⅲ 0.028 50 1.8 0.7以上 適合
UB基礎壁-床下側 立上り内側 カネカ_カネライトフォームスーパーE-Ⅲ 0.028 50 1.8 0.7以上 適合
製品名 熱貫流率 誘導仕様基準 適否
玄関ドア YKKap_ヴェナートD30 D2仕様 2.3 2.3以下 適合
製品名 建具仕様 ガラス仕様 熱貫流率
日射熱取得率
誘導仕様基準 適否
YKKap_エピソードⅡNEO 樹脂+金属 複層・Low-E・ガス封入
14㎜以上 遮蔽型
2.3 2.3以下 適合
0.32 0.59以下
設備仕様
製品名 仕様 誘導仕様基準 適否
冷暖房設備 エアコン LDK パナソニック_CS-634DLX2 省エネ区分 区分(い) エアコン設置必須、かつ区分(い)の製品 適合
LDK以外の居室 パナソニック_CS-224DLX 省エネ区分 区分(い) エアコン設置必須、かつ区分(い)の製品
換気設備 換気扇 パナソニック_FY-08PDA9D 換気方式 壁付け第2種または3種 壁付け第一種不可 適合
給湯設備 給湯器 パナソニック_HE-NS46KQS 熱源種類 エコキュート エコジョーズ・エコキュート・エコフィールのいずれか 適合
年間給湯保温効率 3.3 年間給湯保温効率:3.3以上
UB浴槽 パナソニック_オフローラ_浴槽パンなし_保温浴槽Ⅱ 浴槽 高断熱浴槽を使用する 高断熱浴槽必須
給湯配管 配管方式 ヘッダー方式 : 13A以下 ヘッダー方式 かつ 分岐後13A以下必須
浴室シャワー パナソニック_GTD9PK41VGM 節湯 手元止水(節湯A1)+小流量吐水(節湯B1) 手元止水(節湯A1)+小流量吐水(節湯B1)必須
照明設備 照明器具 LDK 照明器具の種類 全てLED 全てLED必須 適合
LDK以外の居室 照明器具の種類 全てLED 全てLED必須
非居室 照明器具の種類 全てLED 全てLED必須

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